第二章(八)『五行思想』
五行思想の五行は「木」「火」「土」「金」「水」、今生の世界はこの五つの元素から成
り立っていると言う古代中国人の考え方です。
私は当初、中央五文字が五行思想を秘めた文言まで頭が回りませんでした。
しかしある時点で、混沌とした脳味噌の中に裸電球がパッとつくのです。
そして陰陽思想と五行思想とが完全に合流して、印文の奥に天隠された漢文化の神髄、
太極の扉、その第一番目の扉を開くのです。
その時点で、瞬間、吾に返り気がつくのです。
陶磁器はこの「木」「火」「土」「金」「水」の五行の元素、五材を使って生活用品や観
賞陶器などを生み出しています。
陶磁器は生活用品の道具です。
「道具」の頭の「道」は「道教」の神髄です。
即ち“道具”とは「道」を“具現”したものです。
であるから、古代中国では神に奉げる酒器その他祭器などの道具は神聖なものとして今に
伝えられています。
その最高の道具は天子皇帝の象徴、璽印「寶」なのです。
『大漢和辞典』に「陶治」と言う言葉があります。
直訳すれば“陶磁器を治める”であります。
ところが『大漢和』は、これを「善政を施し、民を和すること」と訳しております。
同じく「陶化」“善に導き教化”すること。
また「甄陶」陶器の煙りを“聖王が天下を治める事”とあります。
即ち「五行」「五材」を制するもの、“陶治”するものは、天子皇帝です。
天子皇帝の天下、印面印台に誤差があったり、欠けたり、侵されたりする事は絶対にあ
ってはならない事なのです。
即ち印台の寸法に1mmの誤差も許さないのであります。
日本人の陶磁器の観賞美は、ワビ、サビの世界で熱による万化の窯変や変形を楽しみます
が中国では基本的に陶磁器に対するものの考え方が違うのです。
皇帝の“道具”道教の“道”を“具現化”した“祭器”は、明確な創意、条件付けの基
に焼かれるのです。
それが「陶治」できない事は許されない事なのです。
この神器「寶」は天子であり神です。
まさに確率ゼロ、焼成不可能な神の条件付けがなされ、その条件を完璧に成った焼き物
が神器「寶」なのであります。
この全編を読み通して頂ければ、その条件がいかに不可能かご理解頂ける筈です。
神の文言「九文字」の考案も奇跡であるが、陶磁器に求められた条件も不可能な条件が付
されてあるのです。
その条件を第四章陶磁器の所でご説明いたします。
まさに奇跡を期待するしか術の無い極一、太極の焼成を勅令したのです。
最終篆刻に約3年、この“高さ11センチ”の“手の平に載る”獅子印完成に30年の
歳月を費やしたのです。
まさに信じがたい史実です。・・・・・・・・・・・・・・・・・