父親と下駄
私は時々下駄を履く
そんな私が最近、特別の下駄を履く
それは父親が使用していた下駄である
下駄の歯の裏側は少し磨り減っていた
何度か履いた下駄であろう
その下駄の後ろに父親の筆で自身の名前が書いてある
値段の高い桐の木の下駄ではない
父親が昔、行商に行く時、何時も履いていた下駄である
実家の棚から2足出てきた
・・・・・・・・・・・・!
記憶は定かでないが、父は行商に行くと20日前後、いや1ケ月位は家を留守にした
帰ってくると、新品の下駄の歯が、殆んど磨り減っていた
そして足の指の跡が、黒くクッキリと残っていた
その跡は板の水平から凹んでいた
どれ位歩いたのか分からない
子供心に、それは分かった
・・・・・・・・・・・・・・・
没落した家の再建と、我々を食わすのに一杯であったのである
だから、父親と野球したり、海水浴にいったりしたことは、一度も無かった
振り返って思うに、私と正反対な真面目な人であった
飲み屋も行かず、女遊びもせず、贅沢もせず、コップ一杯の冷酒を、こぼさない様慎重に
口に運んで、美味そうに飲んでいる姿が今も目に浮かぶ
私にとって、その下駄が、一番の遺品である
・ ・・・・・・・・・・・・・・・
平成22年1月13日