訪問者
没落していた我が家である
祖父を訪ねて来る人は少なかった
そんな訳で訪ねて来た、数少ない人を、かえって覚えている
記憶を呼び覚まそう
★その@
昔祖父の所へ氷見市長選に立候補して、あえなく落選した浦山タジロウ先生が何回か訪ね
て来たのを覚えている
先生は大柄な人で何時も羽織袴で来た
そして手には大きな風呂敷包みを抱えてきた
風呂敷のなかには和紙に書いた書状らしきものが沢山あった
中に総理大臣吉田茂からの書状が来たのをその先生は力説していた
物凄い風格と威厳のある人であった
祖父は黙って、黙々と聞いていた
後日、先生が氷見駅で旗(ノボリ)立てて演説しているのを見かけた
市長選に立候補したのである
当時は知らなかったが、結果は落選であった
考えるに、現在の市会議員と比べると風格威厳に雲泥の差を感じる
今でも鮮明に覚えているが、古武士の風格を備えた人であった
★ そのA
ある日、家に帰ると富山大学の教授が来ていた
そして我が家の仏壇の木彫りの阿弥陀如来像を学術研究に提供していただけないかと申し
入れていた
何でも私の家の仏像は室町時代に遡る貴重な仏像との事である
祖父は先祖伝来の仏像を、学術研究とは云えど提供はできないと、丁重に断っていたのを
覚えている
私は何時も忙しく遊びまわっているので、その他どんな来訪者が来たのか殆んど知らない
が、なぜかしらこの二人のことを、鮮明に覚えている
仏像は今も我が家の仏壇に納まっている
平成22年1月8日